
【深掘り観戦記】中谷潤人、Sバンタムの洗礼。「ゾンビ」のようなエルナンデスに見た、階級の壁と“誤算”の正体
サウジアラビア・リヤドの煌びやかな舞台でゴングが鳴った、中谷潤人のスーパーバンタム級転向初戦。
結果は判定勝利でしたが、試合後の中谷の顔に残った大きな腫れは、この階級の厳しさを物語っていました。
今回は、タフなメキシカン、セバスチャン・エルナンデスとの激闘を振り返り、なぜここまでの苦戦を強いられたのか、解説陣の言葉と共に深掘りします。
「効いているはずなのに…」序盤に感じた違和感
試合開始直後、中谷の動きは決して悪くありませんでした。
身長175cmのエルナンデスに対し、さらに上背のある中谷は得意のロングレンジからのジャブ、そして左アッパーを突き上げていました。
解説席の飯田覚士氏も「中谷選手の方が目線が高く、距離を支配している」と評価していました。
実際、中谷のパンチは当たっていました。左アッパーやボディが何度も「ドスン」という音を立ててめり込んでいました。
しかし、エルナンデスは止まりませんでした。
被弾しても表情を変えず、ゾンビのように前に出てくるタフネス。
中谷自身、試合後に「前の階級(バンタム)なら倒れていたと思う」と語った通り、Sバンタム級の選手の耐久力は、これまでの常識を超えていました。
なぜ「地獄の接近戦」を選んだのか?長谷川穂積の指摘
試合中盤、中谷は距離を取るアウトボクシングだけでなく、あえて足を止めて近距離での打ち合いに応じる場面が増えました。
これに対し、解説の長谷川穂積氏は興味深い分析をしています。
「接近戦が得意な相手に、一緒になって打ち合ってどうなのかを試しているのではないか。
ただ、それによって相手の長所(連打)を引き出してしまった」
新しい階級でのフィジカルやパワーが通用するのか、あえてテストしに行った可能性があります。
しかし、これは諸刃の剣でした。
エルナンデスにとって接近戦は最も得意とする土俵。「相手を生かしてしまう展開」となり、結果として中谷は被弾を増やし、エルナンデスの「エンジン」をかけてしまうことになりました。
「フレームの差」と「押し負けるフィジカル」
ラウンドが進むにつれ、中谷の顔、特に右目周辺が大きく腫れあがっていきました。
実況席で話題になったのは、Sバンタム級の選手の「フレーム(骨格)の大きさ」です。
「体をぶつけられた時の強さが違う。それで削られていく」
これまでの相手なら突き放せた場面でも、エルナンデスは体の厚みで押し込んできます。
解説の飯田氏も「下がり方に余裕がなくなっている」と懸念を示したほど、フィジカル面での圧力に苦しみました。
薄氷の勝利:飯田覚士「ドローでもおかしくなかった」
結果は3-0の判定勝利。ジャッジ1名は118-110の大差をつけましたが、残る2名は115-113の小差でした。
「ギリギリでしたね。大差をつけたジャッジもいたが、あのコツコツとしたパンチ(エルナンデスの手数)を評価するジャッジがいれば、ドローになっていてもおかしくなかった」
中谷のパンチは「クリーンヒット(質)」で勝っていましたが、エルナンデスは「手数と前進(量)」で圧倒していました。
ボクシングの採点基準が「ダメージ」なのか「攻勢」なのかによって、勝敗が転びかねない際どい内容だったと言えます。
まとめ:今回の試合のポイント
中谷潤人 vs エルナンデス戦 総括
- 試合結果:判定3-0(118-110, 115-113, 115-113)で勝利
- 苦戦の要因:Sバンタム級特有の相手の耐久力と、接近戦を選択したことによる被弾。
- 解説の評価:長谷川氏は戦術選択に疑問符、飯田氏は薄氷の勝利と分析。
- 今後:井上尚弥戦を目指すと明言したが、フィジカル負けしない体作りと被弾回避が急務。
顔面を大きく腫らしての勝利は、Sバンタム級の壁を痛感させるものでした。
しかし、強打のタフなメキシカン相手に、最後まで集中力を切らさず勝ち切った経験は、KO勝利以上の財産になるかもしれません。
次戦、中谷潤人がどのように進化して帰ってくるのか、引き続き注目です。

