
12月27日、サウジアラビア・リヤドで開催された「Riyadh Season」。
世界中のボクシングファンが注目したメインイベント、井上尚弥 vs アラン・ピカソの一戦は、大差判定(3-0)で井上尚弥が勝利を収めました。
スコアだけを見れば「危なげない完勝」。
しかし、試合直後のリング上でマイクを握ったモンスターの口から出たのは、勝利の喜びではなく「反省」と「苦悩」の言葉でした。
- 「今日は良くなかった」
- 「もっと差を見せたかった」
なぜ井上尚弥は、世界ランカーを完封しながらも「納得していない」のか?
現地リヤドで見えた試合の機微と、その裏にあった「年間4試合」という過酷な現実について、詳しくレポートします。
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試合内容:主導権は常に井上、それでも「理想」には届かず
結果は明確なユナニマス・デシジョン(判定3-0)。フルマークの120―108、残り2人も119―109、117―111をつける完勝だった。
アラン・ピカソ(メキシコ)のタフネスと手数に対し、井上尚弥は終始冷静に対処し、危険な場面はほぼゼロといえる内容でした。
しかし、その「勝ち方」のプロセスに、井上自身が求める理想とのギャップがありました。
1R:意図的な「L字ガード」でのデータ収集
ゴングと共に驚かされたのは、井上の立ち上がりです。
いつもより低い重心、そしてL字ガード気味の構え。これは単なる様子見ではなく、明確な意図がありました。
「どんな構えが一番フィットするか、最初に探っていた」
ピカソは低い姿勢からハイガードを固め、プレッシャーをかけてくるスタイル。井上はあえて異なる構えを見せることで、相手の反応データを収集し、距離感を支配しようと試みていました。
2R以降:「誘い」と「支配」のボクシング
2ラウンド以降、井上はガードを少し緩め、相手に「打たせる」隙を見せる“誘うボクシング”へシフト。
ピカソの出入りに合わせ、鋭いジャブとカウンターを差し込み続けます。
国内メディアはこれを「盤石の強さ」「完勝」と報じました。
一方で海外メディアは、その冷静すぎる試合運びを「理性的で安全な勝利(Clinical and safe victory)」と評価。
そして井上自身もまた、この展開に満足していませんでした。
勝利なき敗北? リング上で吐露した「意外な本音」
試合終了のゴングが鳴った瞬間、井上の表情に笑顔はありませんでした。
勝利者インタビューで語られたのは、会場の空気を一変させるような言葉でした。
- 「今日はちょっと良くなかった」
- 「集中力に欠ける場面があった」
- 「もっと差を見せたかったし、しっかり倒したかった」
なぜ「倒しきれなかった」のか
対戦相手のアラン・ピカソは、事前の予想以上に守備意識が高く、崩れにくいファイターでした。
「想定内のタイプだったが、完全に崩せなかった」と井上が語る通り、ピカソは決定打を許さないタフさと粘り強さを持っていました。
しかし、凡百の王者であれば「タフな相手に大差判定勝ち」は誇るべき実績です。
それを「自分の甘さ」と断じてしまうところに、井上尚弥が目指している場所の高さが浮き彫りになりました。
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過酷すぎた2025年:「正直、しんどかった」
今回のパフォーマンスに影響を与えたもう一つの要因、それは「年間4試合」という過酷なスケジュールです。
近年のスーパー王者クラスでは、年間2試合がスタンダード。
しかし2025年の井上尚弥は、世界トップ水準の相手と4度拳を交えました。常に最高のコンディション、最高のパフォーマンスを求められるプレッシャーは計り知れません。
「正直しんどかった。でも最後までやり切れてホッとしている」
試合後のこの言葉には、リング上の「怪物」ではなく、一人の人間としての素顔が垣間見えました。
「集中力が切れる場面があった」という反省も、肉体と精神を極限まで削り続けた1年の代償だったのかもしれません。
番外編:会場にウシク!まさかの「サインおねだり」

そしてこの夜、リングの外でもう一つの「事件」が起きていました。
リヤドの会場最前列には、ヘビー級統一王者オレクサンドル・ウシクの姿がありました。
(Pound For Pound Rankings)
試合後、なんとウシクの方から井上尚弥のもとへ歩み寄り、笑顔で何かを話しかけると、持っていた入場証にサインを求めるシーンが目撃されました。
身長191cmのヘビー級王者が、165cmのバンタム級王者に敬意を表してペンを渡す。
まさに「強さにサイズは関係ない」ことを象徴するような、リヤドの夜ならではの光景でした。
世界最強の称号を争う2人が、互いにリスペクトし合う姿に、現地のファンからも大きな歓声が上がっていました。またウシクは思った以上にデカいと・・
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結論:勝ってなお悩み、進化する「求道者」
今回のリヤド決戦を総括すると、以下のようになります。
- 判定は文句なしの完勝(危険なシーンは皆無)
- 内容は「安全運転」(リスクを冒さずコントロール)
- 本人の評価は「不合格」(倒しきる理想に届かず)
井上尚弥にとって「勝つこと」はもはや最低条件であり、目的ではありません。
彼の中にあるのは「常に最高であること」「圧倒的であること」という使命感です。
「日本が盛り上がる試合を実現したい」
最後にそう語った井上尚弥。
勝ちながら悩み、勝ちながら反省し、それでも前へ進む。その姿こそが、私たちが熱狂する「世界最強」の本質なのかもしれません。
2025年の激闘を終え、少しの休息の後、2026年に彼がどんな景色(マッチメイク)を見せてくれるのか。
ファンの期待は、この「納得していない勝利」によって、また大きく膨らむことになりそうです。

