井上尚弥

【観戦記】井上尚弥vsラモン・カルデナス!あの「2Rの悪夢」と衝撃の逆転8回TKOを振り返る

昨日(12月19日)、海外ボクシングニュースを見ていて思わず声を上げてしまったファンも多いのではないでしょうか。

そう、あのラモン・カルデナスが再起戦で鮮烈な1R KO勝利を飾りました。

「カルデナス」という名前を聞くだけで、今でも背筋がゾクッとする感覚に襲われます。時計の針を少し戻しましょう。今年2025年の5月、ラスベガスのT-モバイルアリーナ。私たち日本のボクシングファンは、井上尚弥がキャンバスに手を突くという、信じがたい光景を目撃しました。

下馬評では「井上の圧勝」と言われていた一戦。しかし蓋を開けてみれば、それはモンスターのキャリアにおいて最も危険で、そして最も「強さ」が証明された試合となりました。

カルデナスが再起を果たした今だからこそ、あの激闘を振り返る意味があります。なぜ井上尚弥はダウンを喫したのか? そして、そこからどうやって8回TKOという劇的なフィニッシュに繋げたのか?

本記事では、現地観戦した興奮そのままに、井上尚弥 vs ラモン・カルデナスの激闘を徹底レビューします。

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4年ぶりのラスベガス、オッズは「10対1」の楽勝ムード

2025年5月5日。ゴールデンウィークの最終日、日本中がテレビの前に釘付けになりました。井上尚弥にとって、マイケル・ダスマリナス戦以来となる約4年ぶりのラスベガス登場。会場のT-モバイルアリーナは、メインイベント前から異様な熱気に包まれていました。

現地で取材して感じたのは、米国のファンが井上を見る目はもはや「期待のスター」ではなく「生きる伝説(Living Legend)を見る目」に変わっていたことです。

対するラモン・カルデナス。WBAの指名挑戦者としてリングに上がった彼ですが、ブックメーカーのオッズは圧倒的な井上推し。「何ラウンド持つか?」だけが焦点とされ、正直なところ、私を含め多くのメディアが「中盤までのKO劇」を予想していました。

しかし、カルデナスがリングインした時のあの表情。失うものが何もない男の「不気味な笑み」を、私たちはもっと警戒すべきだったのかもしれません。

【第1R〜3R】世界が凍りついた「左フックのカウンター」

ゴングが鳴ると、静かな立ち上がりでした。第1ラウンド、井上は左ジャブを上下に散らし、カルデナスの反応を伺います。カルデナスもガードを高く上げ、じりじりとプレスをかける得意のメキシカンスタイル。この時点では、いつもの井上のペースに見えました。

しかし、「事件」が起きたのは第2ラウンド、残り40秒あたりです。井上が鋭いステップインからワンツーを放ち、さらに距離を詰めようとしたその瞬間でした。

カルデナスが頭を低くしながら、死角からオーバーハンド気味の左フックを振り抜きました。

ドスン、という鈍い音と共に、井上尚弥の膝が折れ、キャンバスに手をつく。一瞬の静寂の後、T-モバイルアリーナが悲鳴と怒号で揺れました。ダウンです。 ルイス・ネリ戦以来、キャリア2度目のダウン。

💡 2Rのハイライト:なぜ井上は倒れたのか?

スロー再生で見ると、井上の右ストレートの引き際に、完全にタイミングを合わせた一撃でした。「見えないパンチ」ではなく「タイミングとリズムを外されたパンチ」だったことが、試合後の井上の「あの瞬間、時が止まったように感じた」というコメントからも分かります。

ダメージは明らかでしたが、井上は冷静にカウント8で立ち上がります。続く第3ラウンドは、まさに「心臓に悪い」3分間でした。勢いづくカルデナスは、ガードの上からでもお構いなしに強打を叩きつけてきます。

しかし、ここで井上の「危機管理能力」が光りました。あえてロープ際を背負いながらも、決定打だけは首の動きとパリングで外し、回復に努めたのです。このラウンドを耐えきったことが、後の逆転劇への最大の分岐点でした。

関連動画:カルデナスVSロブレス ダウンシーン

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【第4R〜7R】修正完了。「削り」のボクシングへ

第4ラウンドに入ると、井上尚弥のギアが変わりました。それまでの「倒しに行く」姿勢から、「相手を壊す」ボクシングへのシフトチェンジです。

井上は顔面へのパンチを減らし、徹底してカルデナスのボディ(腹)を狙い始めました。特に効果的だったのが、左ジャブと見せかけて突き刺す左ボディと、接近戦での右アッパーです。

📈 勝負を分けた「戦術変更」

  • カルデナスの高いガードを逆手に取り、ボディへのジャブを多用
  • 踏み込みを半歩浅くし、カウンターをもらわない中間距離を徹底
  • 6R終了時、カルデナスの足は完全に止まっていた

ラウンドを重ねるごとに、カルデナスの「不気味な笑み」が消え、苦悶の表情へと変わっていきます。序盤あれほど鋭かったカルデナスの踏み込みも、ボディのダメージで完全にストップ。井上はまるで外科医のように、相手の体力を削ぎ落としていきました。

そして第7ラウンド終盤、井上の右ストレートがクリーンヒット。カルデナスがよろめき、ロープへ後退。今度は井上がダウンを奪い返しました。会場のボルテージは最高潮に達します。

【決着】第8ラウンド、戦慄のフィニッシュ

運命の第8ラウンド。井上尚弥は、もう逃がしませんでした。開始のゴングと同時に猛ラッシュを仕掛けます。

カルデナスも必死に応戦しますが、すでに足が動かず、サンドバッグ状態に。最後は、井上の代名詞とも言える「左ボディからの右フック」のコンビネーション。カルデナスが崩れ落ちると同時に、レフェリーのトニー・ウィークスが割って入り、試合をストップしました。

ダウンを奪われながらも、冷静にプランを修正し、最後はきっちりと倒し切る。「モンスター」が「人間」としての脆さを見せつつ、それを凌駕する「リカバリー能力」を見せつけた一戦でした。

OFFICIAL FIGHT RESULT

WBA・WBC・IBF・WBO世界S・バンタム級タイトルマッチ

井上 尚弥

WIN

8R
1:45

TKO

R. カルデナス

LOSE

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まとめ:この苦戦が井上尚弥をさらに強くした

試合後、米国の『The Ring』誌はこの試合を「2025年上半期のベストファイト」に選出しました。また、ESPNの解説者は次のようにコメントしています。

「イノウエがダウンしたことに驚いたのではない。ダウンした後、まるでチェスのように冷静に相手を追い詰めた知性に震えたのだ」

そして、昨日(12月19日)の再起戦勝利です。ラモン・カルデナスが、ただの「噛ませ犬」ではなく、正真正銘の世界トップランカーであったことが証明されました。あの井上尚弥から明確なダウンを奪い、中盤まで苦しめた実績は、彼のキャリアにおいて大きな勲章となるでしょう。

あの苦戦があったからこそ、井上尚弥はさらに強くなりました。現在噂されているフェザー級への転向、あるいはムロジョン・アフマダリエフとの頂上決戦。どの道を進むにせよ、あの「ラスベガスの夜」の経験は、井上にとって大きな財産となっているはずです。

私たちファンにとっても、井上尚弥というボクサーの「底知れなさ」を再確認できた、忘れられない一夜でした。

 


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