井上尚弥

【完全詳報】井上尚弥vsアフマダリエフ観戦記!判定完封の真実と2026年「中谷潤人戦」への布石

2025年9月14日。名古屋・IGアリーナの夜は、これまでの井上尚弥の世界戦とは明らかに異なる空気に包まれていました。

これまでは「何ラウンドで終わるか」「どう倒すか」という期待感が会場を支配していましたが、この日は違いました。対戦相手が、ムロジョン・アフマダリエフだったからです。
元WBA・IBF2団体統一王者。リオデジャネイロ五輪銅メダリスト。プロアマ通じてダウン経験なし。そして何より、井上尚弥がスーパーバンタム級に転向して以来、唯一「危険」とマークされ続けてきたサウスポー。

結果は3-0(118-110, 118-110, 117-111)の判定勝利

KO決着という派手なエンディングはありませんでしたが、この試合は井上尚弥のキャリアにおいて、ドネア戦(ドラマ・イン・サイタマ)に匹敵する、あるいは技術的にはそれ以上の価値を持つ「最高傑作」だったと私は断言します。

本稿では、現地観戦で感じた空気感と、映像を見返して気づいた微細な技術戦を、ラウンドごとに詳細にレポートします。来週(12月27日)のピカソ戦、そして来年の中谷潤人戦を前に、この「伝説の12ラウンド」を今一度、噛み締めたいと思います。

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戦前の緊張感:「怪物」が警戒した唯一の男

試合前の控え室情報からも、井上陣営のピリピリとした緊張感が伝わってきていました。
アフマダリエフは、単にパンチが強いだけでなく、ウズベキスタン特有の「フィジカルの強さ」と「距離感の良さ」を併せ持っています。

「いきなり飛び込めば、右フックのカウンターを合わされる」
「強引に詰めれば、体幹の強さで押し負ける可能性がある」

井上尚弥がこれほどまでに「相手の長所」を消すためのプランを入念に練った試合は、近年なかったはずです。

試合展開 完全詳細レビュー

【序盤 1R〜3R】張り詰めた静寂と“足”の戦い

ゴングが鳴った瞬間、リング中央を取ったのはアフマダリエフでした。
深く腰を落としたサウスポースタイル。右手のガードを高く上げ、鋭い右ジャブを小刻みに突いてきます。

第1ラウンド:
井上はあえて手を出さず、じっくりと観察に徹しました。これまでの試合なら、開始30秒でプレッシャーをかけてロープに追い込むところですが、この日はリング中央で距離を測り続けました。
特筆すべきは「前足(左足)」の位置取りです。サウスポー対オーソドックスの定石である「外側の取り合い」において、アフマダリエフのステップが予想以上に速く、井上が踏み込もうとする瞬間に、スッと半歩バックステップして射程を外す。この技術レベルの高さに、会場はどよめきではなく、息を呑む静寂に包まれました。

第2〜3ラウンド:
アフマダリエフの左ストレートが浅くヒットする場面がありました。クリーンヒットではありませんが、タイミングは完璧。井上の顔が一瞬紅潮します。
しかし、井上も黙ってはいません。3R終盤、相手の右ジャブの引き終わりに合わせた左フックのカウンター。これがガードの上からでも相手の体を大きく揺らせました。「ガードの上からでも効く」という圧力が、徐々にアフマダリエフの精神を削り始めます。

【中盤 4R〜8R】「データ収集完了」からの破壊工作

試合の流れが大きく変わったのは、第4ラウンド終了後のインターバルだったと言われています。大橋会長の指示に小さく頷いた井上は、戦術をガラリと変えました。

第5ラウンド:
井上の狙いが「顔面」から「ボディ」へ明確にシフトしました。
アフマダリエフは上体の動き(ヘッドスリップ)が非常に上手く、顔面へのパンチは芯を外されます。しかし、ボディは動かせません。
井上は、右ストレートをフェイントに使い、踏み込んでの強烈な左ボディ(レバーブロー)を一閃。
「グシャッ」という鈍い音が記者席まで聞こえてきそうな一撃。アフマダリエフの動きが一瞬止まり、ガードが下がります。

第6〜7ラウンド:
ここからは井上の独壇場でした。
足を止めて打ち合う場面が増えましたが、回転力で勝る井上が、上下に散らすコンビネーションで圧倒します。
特に7R、ロープ際に追い詰めてからの左ボディ→右アッパー→左フックのつるべ打ちは圧巻。アフマダリエフは被弾しながらも、驚異的な首の強さで衝撃を逃し、ダウンを拒否します。
「なぜ倒れない?」
観客の誰もがそう思ったはずです。普通のランカーなら3回は終わっている被弾量でした。

第8ラウンド:
井上が少し笑ったように見えました。
余裕の笑みというよりは、「こいつ、頑丈だな」という相手への敬意を含んだ笑みでしょう。
このラウンド、井上はノーガードに近い姿勢で誘い、カウンターを狙う動きを見せ始めました。完全に試合を支配(ドミネート)した王者の姿がそこにありました。

【終盤 9R〜12R】死闘、そして伝説のラスト30秒

ポイントでは大差がついているものの、アフマダリエフは死んでいませんでした。ここからが「元統一王者」の意地でした。

第9〜10ラウンド:
アフマダリエフが捨て身の反撃に出ます。
被弾覚悟で距離を詰め、ショートの連打をまとめてきます。井上もこれに応戦し、リング中央での激しい打撃戦。
井上の右ストレートがクリーンヒットし、アフマダリエフの腰が落ちかけますが、すぐにクリンチで逃れます。この「効いた瞬間のリカバリー」の速さが、彼が最強たる所以でした。

第11ラウンド:
井上はKOを狙い、プレッシャーを強めます。しかし、アフマダリエフはサウスポーの利点を生かして右へ右へと回り込み、決定打を許しません。
「倒させてくれない」
そのもどかしさが、逆にこの試合の緊張感を持続させました。

第12ラウンド(最終回):
会場全体がスタンディングオベーションで迎えた最終ラウンド。
残り1分、ドラマが起きました。
井上がフィニッシュを狙って強引に踏み込んだ瞬間、アフマダリエフの渾身の右フックがカウンターで顎を捉えました。
井上の膝がガクッと折れ、バランスを崩す。
「あっ!」という悲鳴がIGアリーナに響き渡りました。
しかし、井上は倒れませんでした。すぐに体勢を立て直し、逆に猛ラッシュで押し返す。
効かされた直後に、倍以上のパンチを返して相手を下がらせる。この「野生の闘争本能」こそが、技術を超えた井上尚弥の真骨頂でした。
ゴングが鳴った瞬間、両者は抱き合い、互いの健闘を称え合いました。KOこそありませんでしたが、間違いなく「年間最高試合(ファイト・オブ・ザ・イヤー)」候補の内容でした。

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試合分析:なぜKOは生まれなかったのか?

多くのファンが「井上ならKOしてくれる」と期待していましたが、今回判定になった要因は明確に3つあります。

  • アフマダリエフの「リスク管理能力」
    彼は最後まで「一発逆転」を狙いつつも、防御の基本を崩しませんでした。特に、パンチをもらう瞬間に首を捻って衝撃を流す技術は超一流でした。
  • 井上尚弥の「冷静な判断」
    試合後、井上選手はこう語っています。

    「倒そうと思えばもっとリスクを冒せたが、あのアフマダリエフ相手に雑な攻めは命取りになる。今日は31勝目を確実に掴むボクシングを選んだ」

    この言葉通り、彼は自身の「世界戦連勝記録」と「無敗」を守るため、最も確実な勝利へのルートを選択しました。

  • タフネスの相性
    ウズベキスタン選手のフィジカル(骨格の太さ、首の太さ)は、軽量級においては驚異的です。ボディで削られても、芯の強さで耐え抜くタフネスは、井上の想定をわずかに上回っていたかもしれません。

この試合がもたらしたもの:26連勝の金字塔

この勝利により、井上尚弥は以下の記録を達成しました。

  • 世界戦26連勝(男子歴代最多タイ)
    ジョー・ルイス、フロイド・メイウェザー・ジュニアといった伝説の王者に並びました。
  • 4団体統一王座 防衛
    スーパーバンタム級において敵なしの状態を改めて証明。

ネリを倒し、ドヘニーを粉砕し、そして最強の難敵アフマダリエフを技術で完封した。
2025年の井上尚弥は、もはや「倒すだけのモンスター」から、「誰も触れられない完全無欠の王者(Undisputed King)」へと進化を遂げたと言えるでしょう。

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そして未来へ:12.27ピカソ戦、2026年中谷戦への布石

アフマダリエフ戦からわずか3ヶ月。井上尚弥は休むことを知りません。
現在(2025年12月20日)、彼はすでにサウジアラビアのリヤドに入り、来週の決戦に備えています。

2025年12月27日 アラン・ピカソ戦の見どころ

次戦の相手、アラン・ピカソ(メキシコ)は33戦無敗のテクニシャンです。
しかし、アフマダリエフという「剛」の怪物を攻略した今の井上にとって、ピカソのようなタイプは比較的戦いやすいと予想されます。
アフマダリエフ戦で見せた「慎重な駆け引き」とは一転、今度は「圧倒的な暴力性」を見せつけるKO劇になる可能性が高いでしょう。

2026年5月 中谷潤人戦への期待

そして、全ての道は2026年に繋がっています。
アフマダリエフ戦後の会見で、大橋会長は「来年は日本のファンの皆さんが一番見たいカードを実現させる」と明言しました。名前こそ出しませんでしたが、それが中谷潤人であることは公然の秘密です。

アフマダリエフ戦で見せた「12ラウンド戦い抜くスタミナ」と「サウスポー対策の完成形」。
これらは全て、同じサウスポーであり、長身の中谷潤人を攻略するための貴重なデータとなりました。

結論:あの日の判定勝利こそが、最強の証明だった

「KOで勝つ井上が見たかった」
そう思うファンもいるかもしれません。しかし、年月が経てば経つほど、このアフマダリエフ戦の価値は高まるはずです。
あの強打と技術を持つアフマダリエフに対し、一度もペースを渡さず、顔色一つ変えずに完封した事実。これこそが、ボクシングという競技における「強さ」の究極形だからです。

来週、サウジアラビアの地で、井上尚弥はまた一つ伝説を作ります。
そして2026年、東京ドーム。
物語はクライマックスに向けて加速していきます。私たちは今、その歴史的な瞬間の目撃者となっているのです。

 

 


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