「The Monster」と「神の左」。井上尚弥と山中慎介。この2人の共通点は、時は違えど同じバンダム級にいるという事、そしてPFPランカーとして名を連ねた事にあります。
井上選手はバンダムに上げてまだ1戦、山中選手はその前に「お騒がせ男」ルイス・ネリの拳によって連勝ロードをストップさせられ、引退をしています。
仮に今、山中選手がバンダムにいたとしたら、日本人同士の統一、しかも井上対山中は非常に盛り上がりそうですね。
山中選手の現役復帰は年齢的にも中々考えられないでしょうが、今回は井上選手と山中選手が対戦していたら、どちらが強いのかという事に関して考察していきたいと思います。
井上尚弥のデータ
言うまでもありませんが、2018年8月末現在WBAバンダム級の正規王者。WBSSへの参加も確定し、断トツの優勝候補として、日本だけではなく世界からも注目を集める日本人PFP最上位ランカーです。
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身長は165.2cm。バンダムであれば、平均的な身長です。
現在までの戦績は16戦16勝14KO。両手を負傷したデビッド・カルモナ戦以外、世界戦は全てKO乃至TKOで終わらせるモンスター。
その他の判定は、日本タイトルマッチ時代の対田口良一選手。
衝撃的だったのはスーパーフライとバンダムの1戦目。
スーパーフライに階級を上げての第1戦目は対オマール・ナルバエス。ボクシングを知らない人から見た井上対ナルバエスは、ナルバエスが弱いかませ犬のようなボクサーに映ったことでしょう。
しかし実際はフライ級を16度、スーパーフライを11度防衛していた名チャンピオン。井上戦前の敗北は対ノニト・ドネアのみで、KO負けはありませんでした。
その選手を2ラウンド終盤で圧倒的KO!所属ジムの大橋会長ですら判定まで行くことを覚悟していたようで、天井知らずの井上の実力を物語っています。
これも結構有名な話ですが、あまりに強烈なパンチに、試合後ナルバエス陣営からグローブに何か入っているのではと物言いが入りました。もちろん何も入っていませんでしたが、そう思わせてしまう程に、強烈だということですね。
そしてさらなる衝撃はバンダム級デビューとなった対ジェイミー・マクドネル。初めてのバンダムであること、身長差があることが井上選手の懸念材料とされました。しかし、結果は知っての通り、全て心配無用。
決してクリーンヒットとは言えないフックでぐらつかせ、そのままワンツー連打で撃沈。減量の苦しみが減ったことで増したパワー、スピードは井上の凄みをさらに急上昇させました。
現在いるバンダム級王者群の中で、総合力は間違いなくトップでしょう。バーネット、ロドリゲス、テテなどが、マクドネル相手にあの勝ち方を出来るとは、とてもではないですが思えません。
山中慎介のデータ
「ゴッドレフト-神の左」と言われ、左ストレートで数々のKO劇を生み出してきた日本の名チャンピオン。現在は引退していますが、負けは最後の2戦のみで、戦績は31戦27勝2敗2分。身長170cm。
最後の試合はルイス・ネリの体重超過という煮え切らない結果で終わってしまいましたが、WBCバンダム級王座を12度も防衛し、リングマガジンPFP10傑にも名を連ねていました。WBAであればスーパー王者確実の実績になります。
左ストレートの威力を存分に見せつけたのがトマス・ロハス戦。若干フック気味でもありましたが、シュパっと切れる日本刀のような左で、ロハスはリングに前のめり。病院に直行したようです、ロハスが心配になるくらいの左の威力でした。
そしてキャリアハイライトは元WBAスーパー王者のアンセルモ・モレノとの2戦。共に勝利をしましたが、1戦目では一進一退の攻防で勝ち切る強さ、2戦目では的確な小さい左ストレートで顎を上げ、そこからの右フックを綺麗に決める技術の高さを見せつけてくれましたね。
左ストレートでのダウンが殆どの山中選手ですが、基本のワン・ツーをかなり突き詰めた選手といえます。パンチのバリエーションが少ないと思われがちですが、そのワン・ツーにはなんと20通り以上の打ち方があるとの事。
また、特徴的なのは首の捩り。首のひねりを利用して相手の攻撃の衝撃を防ぐためです。これをリング上で頻繁に行っています。完全に後ろを向くようなシーンもありますね。
その首のひねりや、左ストレートの伸びから分かる事は、体の脱力。世界タイトルマッチという舞台であの脱力の姿勢は他王者には見られない特徴です。長谷川穂積選手なんかが近いとは思いますが、山中のは群を抜いていますね。
あの脱力だからこそ、相手は攻撃の起点が分かりづらく、来ると分かっている左が避けられないのでしょう。筋肉に緊張が見えなさそうに思えます。
しかしキャリア終盤は被弾が目立つようになりました。モレノ初戦から危ないシーンが増え始め、ネリの1戦目でそれが結果として現れてしまいましたね。それでは、この井上選手と山中選手の対戦が実現した場合、どちらが勝つのか、それを考察していきます。
井上尚弥VS山中慎介が対戦していたら
この対戦が実現したら、辰吉対薬師寺を超える視聴率をたたき出すかもしれません。それくらい夢のカードです。現に、山中選手がバンダム級王者にいたころ、井上もバンダムへの転向を示唆しており、実現可能性の高い対戦である事は確かでした。
しかし、山中選手はネリ戦後引退。今では予想しかできません。
予想のための基本情報ですが、階級はバンダム。山中選手が12度防衛をした階級で、井上選手はジェイミー・マクドネルとの1戦のみ。それではいくつかの観点から山中選手と井上選手を比較し、総合的にどちらが強いのか見ていきます。
まずフィジカル、身長差は山中選手の方が5cm高いです。しかし、体の分厚さでいえば井上の方ですね。ではこの身長差に井上が苦しむかというと、それは考えられません。
対山中よりも更に身長差のあったジェイミー・マクドネル戦。井上は左にステップインして左ボディを決めていました。あの身長差で懐に踏み込めるのは、余程のスピードと、何よりも度胸がないと出来ません。
井上に5cmレベルの身長差は関係ないでしょう。フィジカルの差は懸念材料になりません。
次に、互いのオフェンス&ディフェンスの比較です。山中選手は脱力した状態からのワン・ツーが秀逸。おそらく今まで井上選手が対戦した相手にはないレベルで打ってくるでしょう。
しかし、井上選手は被弾のシーンがあまりないので、どういうパンチに弱いのか全く分からないというのが正直なところです。
この被弾の少なさを可能にしているのは、井上選手の距離感に対するこだわりですね。ジャブを思い切り伸ばしてギリ届く距離を保ち戦うとの事。
簡単に申し上げましたが、距離感というのは武道・格闘技の究極であり、ボクシングのような目まぐるしい中で距離感に対する意識はチャンピオンでも保つのは至難の業です。
それを井上選手はやってのけています。スパーリングなどを見るとそれがよく分かります。井上選手のリーチは決して長くなく標準サイズ。
それでも井上選手のパンチが先に届きます。距離を支配している証拠です。山中選手に井上の距離感がくずせるほどのステップスピードがあるかないかで問われれば、ないでしょう。
モレノやネリ相手に被弾が多いという事は、スピードに追い付けなくなっている証拠です。井上のスピードは、彼らよりも数段上でしょう。
山中のオフェンスは、井上のディフェンスを崩せないと思います。井上が踏み込んだところを、山中の左ストレートカウンターが襲うシーンを想像しましたが、万に一つかなといったところです。
対して井上のオフェンスは、山中のディフェンスを崩すには十分。オフェンス力に関しても、モレノ、ネリ以上。スピード以上にパワー差は明確です。
山中は、接近戦でぐちゃぐちゃになったところを、キャリア晩年期では狙われていたので、体のパワーで勝るであろう井上が押し切ると予想します。
経験に関してですが、これは山中の方がもちろんあります。WBCを12度も防衛し、リングマガジンの王座にも輝きました。
様々な相手との対戦が、山中選手の引き出しを増やしていったことでしょう。しかし、その経験が井上の前で役に立つかというと、答えは否。それは、特にナルバエス戦が物語っています。
経験を凌駕するスピードとパワー、これを井上選手は持っています。
以上のことから、私は井上選手の勝ちとします。序盤での決着。丁度マクドネルのような展開を予想します。
あのマクドネル戦でのパフォーマンスを見て、山中選手が勝という予想をする方が難しいと思います。
まとめ
以上、山中選手と井上選手の対戦を予想させて頂きました。もう実現は不可能であろう1戦ですが、どちらも日本を代表するファイター、しかも世界的な評価も高い。
PFPに入った者同士の1戦リアルで見たかったですが、予想しか出来ないので、それは井上選手ですね。
パワー、スピード、テクニック、全てにおいて圧倒的ではないにしろ、井上選手が上回っているでしょう。
WBSSバンタム級トーナメントで、井上尚弥の本当の実力が見られることと思います。
おわり