いい意味でも、悪い意味でも、彼ほど一般視聴者をボクシングに惹きつけた選手はいないでしょう。
亀田興毅、おそらく日本で最も有名なボクサーは、2015年10月16日のシカゴでの対河野公平選手に敗戦後すぐ、引退を表明。
その後はAbemaTVなどでボクシングの企画に参加するなど、精力的にタレント活動をしていました。
しかし、やはりボクサーの引退表明ほど信憑性のないものはありません。
2018年1月1日、AbemaTVの企画である「亀田大毅に勝ったら1,000万円」の終了後のリング上で、1試合のみの現役復帰を表明します。つまり復帰戦がまた引退試合となります。
ではその試合はエキシビジョンになるのか、JBCに公式試合として認定されるのか?そして対戦相手の状態等、書いていきたいと思います。
亀田興毅の引退試合はエキシビジョン?
日本で最も有名なボクサー?亀田興毅
試合前の強烈なトラッシュ・トーク、相手を威嚇するメンチ切り、そして疑惑の判定、弟大毅選手の反則問題等
リングの中はもちろん、外でも様々な場面でこれほど注目されたボクサーは、彼をおいて他にはいません。
対内藤大助戦においては、なんと最高瞬間視聴率51.2%を記録。日本のプロボクシング中継では辰吉対薬師寺に次ぐ第二位の記録です。
デビュー以降、破竹の快進撃。相手は公式記録で勝利がない選手、ブランクの長い選手が多く、その実力が疑問視されていましたが
KO負けがなく、後に亀田が戦っているファン・ランダエダを判定で倒しているノエル・アランブレッドをOPBFのタイトルマッチでKOするなど
世界トップクラスの実力を有していたのは間違いないでしょう。
亀田選手の実力に関して様々意見がありますが、三階級制覇は弱い選手では絶対に出来ません。
ただ、初めての世界タイトルマッチの対ファン・ランダエダ戦以降、歯車が狂い始めていったように感じます。
この試合前、亀田は規定体重を勘違いしていたようで、かなりの減量苦を強いられたそうです。そこでランダエダの軽い右で初めてのダウン。
このダウンの記憶が脳裏に焼き付いてしまったのか、その後の亀田のボクシングはタッチボクシングになってしまったように見受けられます。
もしくはランダエダとのダイレクトリマッチで、アウトボクシングに徹し完勝したことから、味をしめたのか、デビュー当時のような豪快なKOは見られなくなりました。
そうなると、試合前のビッグマウスとは裏腹な試合内容に、ファンはバッシングを浴びせます。
疑惑の判定や大毅選手の反則問題も重なり、連日のテレビ報道では犯罪者のように扱われたといっても過言ではありません。
それでも、上述の内藤戦での勝利で二階級制覇
デビュー以来23戦連続のKO勝利記録を持つアレクサンドル・ムニョス戦で三階級制覇を果たします。
実績としてはウーゴ・ルイスとの試合での判定勝利が最も大きいでしょうか。
ただ、2013年以降日本での試合が出来なくなった関係もあり主戦場は海外に。
バンダムにあげた所以なのか、力も目減りしていき、33戦目の韓国での孫正五戦は、かなりの衰えが見えるような試合でした。
そして、シカゴで河野公平とのWBAスーパーフライ級タイトルマッチ、この戦いで亀田は敗れ、その後引退を表明します。
その後は上述の通り、AbemaTVなど番組のボクシング企画に参加
タレント活動をするとともに、まだ現役の三男和毅選手のサポート、自身が代表を務める亀田プロモーションの運営などに尽力していました。
突然の現役復帰表明、そしてその対戦相手
引退してからの亀田選手の活動は、ボクシングそのものの素晴らしさを広めるために行っていたように思えます。
「亀田興毅に勝ったら1,000万円」という企画を皮切りに、その中の参戦者であるジョー・ブログをプロボクサーまで育て上げました。
ジョー・ブログ選手は2018年1月1日にデビュー、ヤノジョン選手相手にダウンを奪い、判定勝ちを収めています。
その同日、「亀田大毅に勝ったら1,000万円」の企画や亀田京之介選手のプロデビュー戦もあり、全てのイベントが終了後、リング上で現役復帰を表明するのです。
引退後、「ボクシングの素晴らしさ」という言葉を何度も口にしていた亀田選手。
その素晴らしさに一番魅了されていったのは、他ならぬ本人自身だったのかもしれませんね。
何より、キャリア晩年を日本で試合が出来なかったことを思い、日本のファンの前でキャリアに完全終止符を打ちたいという思いが、湧き上がってきたのでしょう。
現役復帰兼引退試合は、5月に行われるということは早いうちから明らかにしていましたが、その対戦相手に関しては、すぐには亀田選手の口からは出てきませんでした。
ネット上では様々な憶測が飛び交いましたが、亀田が「どうしても戦いたい相手が2人いる」と言っていることから
おそらく亀田選手が負けた2人の相手、直近の河野公平選手か、タイのポンサクレック・ウォンジョンカム選手が最有力候補であると、ネット上では噂になっていました。
そして3月31日、同じくAbemaTVの番組で対戦相手を発表。大方の予想通り、タイのポンサクレック・ウォンジョンカム選手に決定しました。
ポンサクレック・ウォンジョンカムへの選手ライセンス承認はあり得るか?
しかしこの亀田対ポンサクレック、いきなり暗雲が立ち込めます。こんなトラブルもやはり亀田らしいといえば、亀田らしいですね。
日本国内で行われるプロボクシングの試合の管理、運営、統括を行う日本ボクシング協会JBCは
「ポンサクレックへボクサーライセンスを再交付しない」と、亀田選手が所属する協栄ジムへ通達を出しました。
JBCの規定では、元王者等ボクサーとしての実績があれば、最終試合から3年以内という条件のもと正式なライセンスの交付が可能になっています。
故に、亀田選手に対しては既にライセンスが交付される事が確定していますが、ポンサクレックに対しての交付は認められないということになりそうです。
実はこのポンサクレック、亀田戦の実現のためなのか、タイで4月8日に約4年7ヶ月ぶりの復帰をし、8ラウンドフルに戦い判定勝ちを収めています。
これで「最終試合から3年」という規定はクリアし、念願通り日本での公式試合が行われる、と思われましたが、やはりそこは古い体質のJBC
どうやらライセンスの交付はなさそうです。
正直申し上げて、ボクシングを魅力あるエンターテイメントに昇華出来ないJBCには批判も多いです。
未だに有料でしか見れないボクシングモバイル、選手個人によるチケットの手売り、平日の試合開催等々。
ボクシングファンしか見ないボクシングを、その他視聴者までに広げていったのが亀田選手の最も大きな功績であるにも関わらず
本人が最後に熱望したポンサクレックとの試合はエキシビジョンとして落ち着きそうです。
ただ、このJBCの判断に関しては、仕方ないというか、正しいように思えます。
ポンサクレックは既に40歳、しかも4月8日に試合を行っており、また5月5日に戦うとなれば試合間隔は1ヶ月未満。
若い選手ならおそらく問題ないのでしょうが、4年7ヶ月ぶりに復帰して2ヶ月連続で試合をさせるのは、安全面を最重要視するJBCとしては断ることしか出来ないでしょう。
ポンサクレックと亀田興毅、アジアを代表するチャンピオン同士が現役復帰で激突するというニュースは海を渡り、
ESPNでも報道されたようですが、どうやらエキシビジョンに落ち着きそうです。JBCの判断は覆らないでしょう。
因縁のポンサクレック
亀田興毅とポンサクレックの因縁
AbemaTV側は、JBC公認にしろエキシビジョンにしろ、試合は行うと声明を出しています。
ヘッドギアと16オンスグローブという事はないと思いますが、亀田はJBCライセンスを取得してしまっているので、完全なノーヘッドギア、8オンスという状態での試合は難しいです。
当日は、その他公認のプロの試合も行われるようなので、JBC管轄のリングともいえます。そこで非公認といえども、危険な試合を行わせることは出来ないと思います。
どんな形にせよ試合が行われる事は間違いないので、亀田とポンサクレックの因縁の歴史、そして今のポンサクレックの状態を見ていきたいと思います。
2010年、有明コロシアムで亀田とポンサクレックはフライ級の統一戦を行い、0-2の判定負けで亀田は王座を失いました
亀田のボクシングキャリアで初めての敗戦です。
そしてその試合の後、父親の史郎氏はジャッジに対して暴言や不適切な行動をとったことから、セコンドライセンスとプロモーターライセンスの無期限停止処分を受けます。
これまでメディアに多数出演していた史郎氏も、ここから表舞台には出なくなりましたね
その後少し時は経ちますが、JBC職員に由る亀田ジムへの訴訟問題、弟大毅選手の「負けても王座保持問題」等々亀田家には数々逆風が吹き
日本国内でのライセンスも剥奪されました。
日本国内で負けたままの相手ポンサクレックは、亀田にとって日本国内でプロとして倒しておきたい相手なのですね。
亀田選手とポンサクレックの関係性は、2010年から始まっているというわけではありません。
遡れば2002年、亀田選手がまだ大阪のグリーンツダジムに所属していた頃、ポンサクレックが6度目の防衛戦のため来日をします。
その際、まだデビュー前の亀田選手がスパーリングの相手として抜擢され、ポンサクレックは亀田の事を高評価しています。
まさか8年後にタイトルマッチで戦うとは夢にも思わなかったでしょう。
亀田選手はその翌年プロデビュー。そして2004年に二人はまた、タイで相まみえます。スパーリングの映像等残っていないので確認は出来ないですが
亀田は帰国後にポンサクレックを圧倒したと報道陣に報告。それを聞いたポンサクレックが不満を口にしたそうです。
そして2010年にお互いチャンピオンとして激突。結果はポンサクレックが老獪なテクニックで亀田をコントロールし、判定勝ち。亀田のキャリア初黒星となりました。
亀田選手のボクシングキャリアの中で、興毅選手自身がスパーにしろ何度か手を合わせ、プロとしては負けたままで終わっているのはポンサクレックただ一人。
本人としては、どんな形であれば日本国内で完全決着をつけたいところです。
それ故に、JBCの判断は亀田選手にとっては非常に残念だと思いますが、どんな形であれ、お互い今出来る最高の状態でリングに上がってほしいと思います。
亀田選手のボクサーとしての状態
昨年行われた「亀田興毅に勝ったら1,000万円」は、素人相手のいわゆる「茶番」でありましたが
亀田選手の動きは、やはり引退したボクサーの動きであり、さすが元チャンピオンというものではありませんでした。
今回の現役復帰に対して様々な意見がありますが、特に「厳しいのではないか」「無理だ」という意見が多かったのがボクサー。
ワタナベジムの内山選手、京本選手、何より「亀田興毅に勝ったら1,000万円」で亀田選手の動きを真近で見ていた竹原慎二もそのような意見です。
それだけ亀田選手の動きは鈍っているように見えたのでしょう。全盛期のレベルに持っていくのは明らかに無理でしょうが、それに近づいていくため、亀田選手はフィリピン合宿を敢行しています。
その動きを見ると、なかなかキレがあります。フィリピンでのスパー映像は断片的にしかまだ公開されていませんが、特に右フックのキレがすさまじい。
さらに、引退後もボクシングに関する知識を積み重ねていった亀田選手は、現役時代に出来なかった様々なトレーニングを行っているそうです。
JBCが認める認めない関係なく、5月5日の試合は茶番ではなく、本当のプロの試合として亀田選手は認識しています。
プロとして試合に臨む亀田選手が短期間でどこまで体を作り上げ、因縁のポンサクレックにどのような戦いを見せるのか、非常に楽しみです。
ポンサクレックの状態は?
では、相手のポンサクレック選手はどのような状態にあるか。
上述の通り、ポンサクレック選手は2018年4月8日、4年7か月振りのプロボクシングの試合に参加。判定勝ちを収め、タイ国スーパーバンダム級のチャンピオンになっています。
2001年にマルコム・ツニャカオにTKO勝ちしてWBC王座を獲得し、02年には内藤大助氏に、世界フライ級史上最短記録の初回34秒でKO勝ちするなど
同級史上最多17度の防衛に成功。
日本人キラーとして名を馳せたポンサクレック、亀田、内藤の他清水智信、トラッシュ中沼、粉川拓也を退けており、現役時代の対戦相手の質においては亀田選手を大きく上回っています。
直近の4月8日の試合で8回戦を行っていることから、スタミナは心配がないように思われます。しかし、ポンサクレックももう40歳。
亀田選手がポンサクレックの名前を記者会見で発表した時、テレビ電話でポンサクレック選手とつながり、元気な様子を見せていました。
確かに体型は変わっていないように見えます。
5月5日の試合が何ラウンドで、どうのような状態(ヘッドギアの有無等)で行われるのかは分かりませんが
40歳の年齢で1か月未満の試合間隔だと、非常にきついはずです。多少のダメージの残りはあるかもしれません。
スタミナ、パワーという面においては、亀田選手に劣るでしょう。
しかし、現役のころの老獪さ、試合勘という点に関してはポンサクレックが断然有利なはず。
4年ぶりの試合でタイ国チャンピオンの選手に8R戦い勝ったのも、おそらくその老獪さを武器にしたのでしょう。
そして試合勘も戻しているはずです。
8年前、亀田選手はポンサクレックの老獪さにやられました。8年たった今も、その老獪さは健在のようです。
ポンサクレックの1戦から他のボクサーが味わう事のない苦しみを背負ってきた亀田選手、この復讐をどのようにポンサクレックにするのか、5月5日が楽しみですね。
まとめ
以上、亀田選手復帰そして引退試合の行方、その相手ポンサクレックに関しても書かせていただきました。
ヘッドギアの有無、グローブの重さ等は試合に近い形式に出来るかもしれませんが、JBCからの公認は出ることはないと思います。
安全面への考慮でストップが速い傾向にあるJBC側から、40歳でしかも1か月の間隔で試合をしようとしているポンサクレックに対しOKを出すとは考えにくいからです。
ただポンサクレックの老獪なボクシングは、現在タイのチャンピオンを下している事からもまだまだ健在。
アジアの看板選手であった因縁ある二人が、尚また激突します。
亀田選手はそのために現役時代に近づくためのトレーニングを敢行。
引退以来見せいていない、亀田選手の本気のボクシングに注目です。
おわり