柔道、レスリング、空手等格闘技は、その多くが階級別に分かれています。もちろんボクシングも階級制のスポーツ。
ミニマム級からヘビー級まで、17階級に分かれています。
なぜ厳密にここまで分かれているのかというと、やはり対人する格闘技においては体重が非常に重要な要素であり、1階級違うだけでパンチの威力が数段違うと言われています。
単純な話、ミニマム級とヘビー級の選手の試合など危険すぎて行わせる事などできません。重すぎてもだめですが、もちろん軽すぎてもダメなのです。
ボクサーは試合の1日前、計量で体重を量ります。
そこで1gでも重ければ、2時間の猶予を与えられ再計量となり、それでもクリア出来なければ、試合は中止か、もしくは罰金等ペナルティがついてきます。
最近ですと、山中慎介と対戦したルイスネリや比嘉大吾・・悪質感は違いますが
ボクサーは自分が戦う階級の体重に合せるため、試合の約1か月前から減量をスタートさせます。
では、その減量時の食事メニューや、最近よく聞く水抜きなど、その過酷さについて書いていきたいと思います。
プロボクサーの減量時の食事メニューは?
そもそもなぜ減量するのか?
ボクサーはなぜ減量をするのか?自分の普段の体重で戦えばいいじゃないかと思われる方も多いと思います。
答えから先に申し上げると、体格が大きい方が有利だからです。体格が大きい方がパンチ力も強いですし、防御の耐久性も上がります。
例えば、通常体重が65kgの選手と、60kgの選手が、60kgを上限体重として戦うとします。
5kg落した選手と、そのままの選手、試合当日どちらのパワーが強いかというと、65kgの方です。
65kgの選手の方は、60kgの選手に比べて5kg分骨格も大きくパワーもあり、何より前日計量後65kgまでリバウンドが楽にできてしまうからです。
しかし、もしこの二人が55kgの契約で戦った場合、そうともならないのです。60kgの選手は5kgの減量、65kgの選手の方は10kgの減量を強いられます。
よく言われるのが、通常体重の10%位まで落とすのが丁度よいと言われます。例えば60kgであれば、約6kg落した54kgが体も軽く、そこまで無理もないといった具合です。
10kgも落とした選手がいいパフォーマンスが出来るかといえば、疑問符が付きます。
例を出して申し訳ないが、比嘉大吾は普段の体重は62kgほどで、フライ級のまで落とすとなると11.2㎏も落とす・・
そりゃ汗も出ないですよ、脱水症状状態です
自分が動けるギリギリのところまで体重を落して体格の利を手に入れ、試合当日のリカバリーでより優位に立つのが理想です。
ちなみにIBFは前日だけではなく当日も計量を行い、より体重の公平さを保とうとしています。
体格の利を活かす、という理由以外に挙げられるとしたら、その選手のモチベーションです。
以前テレビ番組で畑山選手が、なぜ減量をするのかという質問に対して、減量がないと練習しないし、ハングリーにならない、という事を仰っていました。
もちろん強くなるために練習するのですが、同時に体重を落とすという意味合いもあります。
それに体重を落とすことで神経が過敏になり、苦痛が生まれ、絶対に試合に勝ってやろうという気持ちになっていくのです。
体格だけではなく、精神面においても減量はボクサーにとって必要なんですね。
では、その減量中の食事メニューを見ていきたいと思います。
高タンパク低カロリーが定番
最近健康志向の高まりからか、本屋に行っても健康な体作りのための本や雑誌の特集が多くみられます。その中で最も多いキーワードが「高タンパク低カロリー」です。
タンパク質とは人間の三大栄養素の一つで、もう二つは糖質と脂質です。この三つは全て重要なのですが、何が一番重要かと言われればタンパク質です。
タンパク質は、髪の毛や皮膚を作る重要な要素で、たとえ減量中であっても栄養素として取らなければいけません。
また、取り込んだタンパク質は必要な分だけ体内で吸収され、要らない分は便として排出されるので、あまり体重増加の心配はありません。
もちろん食べ過ぎはだめですが、減量開始初期であれば、積極的に取っていい部類のものです。
減量開始から計量1週間前までは、鳥のササミ、納豆、卵、めかぶ、サラダ、豆腐など自身の体重と相談して量を食べるのが一般的です。
御飯、パスタに代表される炭水化物の摂取も重要です。
炭水化物は糖質と食物繊維によって構成されています。この糖質は、すぐエネルギーになってくれるので、スパーリング等強度の高い練習の前は口にした方がいいでしょう。
人にもよりますが、大体4時間前が目安です。
ただ、余分な糖質はタンパク質と違い排出されにくく、体に溜まり脂肪になりやすいので、取りすぎは禁物です。
お米マイスターにとってはホント厳しいね・・
食べ物自体の重さも注意です。
例えば、一回の練習で1.5kg減ったとします。その減った分を上まらないように、食事量を調整していきます。
減量も佳境に入ると、一回の練習やロードワークで流れる汗も減り、体重は落ちにくくなり、故に食事量も減っていくのです。
計量一週間前程度になると、食べる量を極端に減らす事が多いです。
こうなると、脂質が低下するので、肌がカサカサになったり体の免疫力が低下してきます。
減量中のボクサーはよくマスクをしていますが、弱った体を少しでもウィルスから守るための措置なんですね。
極限まで食事量を減らし、削る脂肪がないとき、減量の終盤に行うのが水抜きです。
水抜きや過酷さはヤバイ?
水抜きは、その名の通り体内の水分を減らす作業です。
体の70%は水です。そして、2%水分量が減るだけでも目眩や吐き気などの症状が出てきます。いわゆる脱水症状というものです。
当たり前ですが、減量中は様々な物が食べたくなります。しかし、それらを我慢しても、どうしても取りたくなってしまうのが、水分なのです。
これは好き嫌いではなく、体が欲します。
減量終盤の水抜きで体の水分量が少ない時、シャワーの時ですら気をつけないといけません。
皮膚から水分が吸収され、体重が増えてしまうからです。体にクリームを塗り、その吸収を和らげるといった措置を取ります。
体が欲しているので、水抜きはつらいです。普通の人が一日水分を全く取らないのですら我慢出来る人は多くないでしょう。
酷くなると、痙攣やパニック状態に陥ります。故に、水抜きは計量24時間前からのスタートが多いようです。
これも比嘉大吾の症状なのかな?
食事制限も合わせてしているので、計量時のボクサーの体は本当に極限まで削った体なのです。
まとめ
あしたのジョーの力石のような減量は最近では少なくなりました。栄養学の普及もあり、必要最低限の栄養を取りながら、計画的に落としていくのが今の主流です。
柳 和龍(りゅう・わりゅう)トレーナー:
元WBA世界スーパーフェザー級王者、元WBA世界ライト級王者の畑山隆則を育てた名トレーナーの話
「食べて動いて痩せる。食べないと動けないので痩せない」
とも言っていました もちろん限度はありますよ
減量には、体格の利を活かしたり、モチベーションのためになるなど、ボクサーにとっては避けては通れない作業のひとつ。
SNSなどで日々の減量の様子をアップしている選手もいるので、参考にしてみるのもいいでしょう。
しかし逆に、その体重がないがしろにされているのも問題です。
キャッチウェイトの試合が多くなり、契約体重を守れなくても罰金の支払いや、チャンピオン剥奪という処罰を課すだけで、根本的な解決にはなっていないですね。
体重を守らないことのメリットなど一つもなく、ただ試合の価値が下がるだけです。
水抜きに代表される過酷な減量を行うことが美徳とされるのも良いですが、選手にとって無理のない適性体重で試合が行われ、
その選手のベストパフォーマンスをファンとしては見たいところです。
おわり